腰痛経験のある方は、何故?腰を曲げて歩いている方が多いのか。
- 未在代表 松舘 敏
- 21 分前
- 読了時間: 5分
理学療法の臨床では、急性腰痛、慢性腰痛を経験された方は非常に多く、腰痛の有無を問わず、腰を曲げて(体幹伸展できず)歩かれている方は多い状況です。特に高齢者となれば非常に顕著です。
最近担当した方は、慢性腰痛症が有りましたが、現在 疼痛はなく、膝関節伸展制限は無いのですが、立位にあっては体幹前傾位(体幹伸展できない)にありました。
理学療法評価・考察を行う中、ふっと掲題の疑問が湧いてきました。
私が感じた疑問に対するメカニズムを調べていく中、非常に興味深い「メカニズム・セオリー」がありましたので、自己学習のアウトプット的にご紹介したいと思います。
バイオメカセラピー(:BMT)
-人間工学に基づいて体系化された理学療法の新しいコンセプト-
の視座より。
【何故、腰痛の人は多裂筋の遠心性収縮が難しいのか?】
腰痛の方は「多裂筋の操作による腰椎−骨盤運動リズム」を行う際に、求心性収縮は可能でも遠心性収縮が難しくなることが多い理由に、主として「制動機能の低下」にあると考えられます。
多裂筋は、単に腰椎を伸展させたり固定したりする筋ではなく、腰椎椎間関節のわずかな滑りや剪断を制御しながら、腰椎−骨盤の運動を“安全に減速・制動する”役割を担っています。
このため、遠心性収縮では、
・体幹や骨盤の動きによって生じる前方・下方・回旋方向への力
・椎間の微細なズレ
・腰椎の局所的な不安定性
を、多裂筋が持続的かつ精密にコントロールし続ける必要があります。
しかし腰痛の方は、こうした局所安定化機能が低下していることが多く、
・痛みによる防御的な筋出力の乱れ
・多裂筋の萎縮や活動タイミングの遅れ
・表層筋優位となり、局所の微調整が苦手になる
・「動かす」ことよりも「止めながら動く」ことの方が難しい
という状態が起こると考えられます。
短縮しながら力を発揮する求心性収縮は比較的行えても、
“崩れそうになる腰椎−骨盤運動をコントロールしながらゆっくり許容する”遠心性収縮になると、痛みや不安定感が出やすく、遠心性収縮動作が難しくなります。
臨床的に、遠心性収縮が苦手な方は、
・骨盤が一気に前傾/後傾してしまう
・腰椎の分節運動が抜けて、塊で動く
・途中で力みが入る
・可動域の終末で痛みや引っかかり感が出る
といった所見として現れやすい。
従って、理学療法介入としては、最初から大きく動かすよりも、
・小さい振幅で
・ゆっくり
・痛みの出ない範囲で
・「動かす」より「止めながら動く」感覚を学習させる
ことが重要になります。
つまり、多裂筋の再教育では、「収縮できるか」だけではなく、「腰椎−骨盤運動を破綻させずに制御できるか」をみることがポイントになります。
ここで重要なのは、筋の収縮を単なる「力を出す現象」としてではなく、筋の力学モデルから考えることです。
筋は力学的には、大きく
・収縮要素(contractile element)
・弾性要素(elastic element)
・粘性要素(viscous element)
の、組み合わせとして考えることができます。
この視点からみると、
「求心性収縮」では、主として「自ら張力を発生させて短縮する能力」が求められます。
「遠心性収縮」では、加えて「加わってくる外力をどう受け止め、どう減衰させ、どう跳ね返さずに制御するか」が重要になります。
つまり、遠心性収縮では、筋の弾性要素と粘性要素の制御が非常に重要になります。
《弾性要素の観点》
筋や筋膜、腱、関節包などには弾性があります。弾性要素は、伸ばされると張力を生みますが、これはいわば“バネ”の性質です。腰痛の方では、この弾性要素をうまく利用して「適度な張力で支える」ことができず、「過剰に張って固めてしまう」あるいは「必要な張力が入らずに支えきれない」という両極端が起こりやすくなります。
その結果、本来は多裂筋が椎間の微細な動きを受け止めながら、しなやかに制御すべきところを、「硬く止める」か「抜ける」かになりやすいのです。
《粘性要素の観点》
一方、粘性要素は、動きの速度に応じて抵抗を生む“ダンパー”のような性質です。これは、運動を急に崩さず、滑らかに減速させるために重要です。遠心性収縮とは、まさにこの“ダンピング”が必要な局面です。つまり、腰椎−骨盤が動こうとする時に、多裂筋は単に引っ張るだけでなく、「速すぎる動きを減速する」「局所のぐらつきを吸収する」「椎間の微細なズレをなだらかに制御する」必要があります。
ところが腰痛の方では、この粘性制御が破綻しやすく、「動き出しは良くても途中で一気に崩れる」「一定速度で動けず、急に落ちる」「終末域で止められず痛みが出る」「滑らかさがなく、ぎこちない運動になる」といった現象が起こりやすくなります。
つまり、腰痛の方で遠心性収縮が難しいのは、単に「筋力が弱いから」ではなく、「弾性要素による張力調整」と「粘性要素による減速・制動」の両方を、多裂筋がうまく統合して制御できなくなっているからです。
臨床的に言い換えると、腰痛の方では「動かす力」よりも「崩れないように、しなやかに受け止める力」が落ちている、と理解すると分かりやすいと思います。
そのため、介入では最初から大きく動かすのではなく、
・小さい振幅で
・ゆっくり
・一定速度で
・途中で抜けたり固めたりしないように
練習することが重要になります。
つまり、多裂筋の再教育では、「収縮できるか」だけではなく、「腰椎−骨盤運動の中で、弾性と粘性を伴った制御ができるか」を診ることが重要となります。
上記は、多裂筋の遠心性収縮に焦点を当てたものであり、純粋に体幹を伸ばす機能の問題とは言えません。
体幹を伸ばす(=脊柱伸展)では多裂筋の求心性収縮と共に、伸展を保持し続ける等尺性収縮も必要であり、多裂筋の発火に関わる腸腰筋や背側の表在筋との協調的収縮も求められます。また「痛みの記憶」という知覚問題も考えていかなければなりません。
しかし、筋再教育を考えるにあたっては、重要な知見にあると思います。
これら知見を積み重ね、臨床思考を繰り返し、個別的な運動プログラムを指導していきたいと思います。






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