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「体内の飽和脂肪酸を減らし不飽和脂肪酸を増やす因子」-No.474




体内の飽和脂肪酸を減らし不飽和脂肪酸を増やす因子を発見




研究成果のポイント


1.がん抑制遺伝子であるARMC5が、脂肪組織において飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸

 を増やすことを明らかに。


2.飽和脂肪酸は健康に悪く、不飽和脂肪酸は健康に良いことが知られているが、脂肪組織の

 飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の量を制御する因子は明らかでなかった。


3.ARMC5に着目することで、体内の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸をターゲットとした新規薬

 剤の開発が期待される。




概要


 大阪大学大学院医学系研究科の大学院生 魚田晃史さん、奥野陽亮助教、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、がん抑制遺伝子であり、SREBP1分解因子であるARMC5が、脂肪組織において飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸を増やすことを明らかにしました。


 近年、研究グループは、脂質代謝において中心的役割を担うSREBP1を分解するユビキチンリガーゼARMC5を同定していました(Okuno Y et al. JCI Insight. 2022)が、その生理機能は良く分かっていませんでした。

 今回、研究グループは、脂肪細胞に特異的にARMC5を欠損させたマウスにおいて、脂肪酸不飽和化酵素SCDの発現がほぼ消失すること、その結果、脂肪組織の飽和脂肪酸が増加し、不飽和脂肪酸が減少することを見出しました。もともと、SREBP1はSCAPと結合して活性化され、SCDを発現誘導することが知られていましたが、研究グループは、ARMC5がSCAPと結合していないSREBP1を選択的に分解することにより、SREBP1を活性化することを示しました(図1)。


 これまで、飽和脂肪酸の摂取は血液中の悪玉コレステロールを増加させ動脈硬化性疾患のリスクを高めるなど健康に悪く、不飽和脂肪酸の摂取は逆に悪玉コレステロールを低下させるなど健康に良いことが分かっていました。ARMC5を標的とすることで、体内の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸量を調整できる新規薬剤の開発が期待されます。


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図1. ARMC5欠損により脂肪組織の脂肪酸不飽和度が変化するメカニズム

 



研究の背景


 近年、研究グループは、脂質代謝において中心的役割を担うSREBP1を分解する因子ARMC5を同定していました(Okuno Y et al. JCI Insight. 2022)が、その生理機能は良く分かっていませんでした。




研究の内容


 研究グループは、脂肪細胞特異的にARMC5を欠損させたマウスにおいて、脂肪酸不飽和化酵素SCDの発現がほぼ消失すること、その結果、脂肪組織の飽和脂肪酸が増加し、不飽和脂肪酸が減少することを見出しました。もともと、SREBP1はSCAPと結合して活性化され、SCDを発現誘導することが知られていましたが、今回研究グループは、ARMC5がSCAPと結合していないSREBP1を選択的に分解することにより、SREBP1を活性化することを示しました。




本研究成果が社会に与える影響


 これまで、飽和脂肪酸の摂取は健康に悪く、不飽和脂肪酸の摂取は健康に良いことが分かっていましたが、ARMC5を標的とすることで、体内の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸量の調整を目的とした新規薬剤の開発が期待されます。




この研究について研究者からひとこと


ARMC5は、もともと副腎過形成の原因遺伝子として同定され、世界的にも副腎における機能解析が主流でした。本研究では、ARMC5が脂肪細胞の脂肪酸飽和度を強力に調節し、更にSREBPを分解する因子でありながら活性化することが明らかとなりました。当初の予想とは全く異なる方向に進み苦労しましたが、自然の謎を解いていく実験の面白さを味わいました。

ー奥野陽亮 医学系研究科 助教ー




用語解説


ARMC5:

16 番染色体上に存在するがん抑制遺伝子


SREBP:

Sterol regulatory element binding proteinの略。コレステロール合成遺伝子や脂質合成遺伝子の発現調節に中心的役割を果たす転写因子。


ユビキチンリガーゼ:

タンパクに小分子であるユビキチンを付加するタンパク。ユビキチン化されたタンパクは、プロテアソーム経路により、積極的に分解されて除去される。


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