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悪性腫瘍(がん)のリハビリテーション ③

 本稿においては,主にリハビリテーション専門職ならびに関連職種に対し,リハビリテーションを実践していくにあたっての「リスク管理」についてご紹介していきます.

 また、当事者(患者さん,ご家族)にあっても,訪問理学療法士 等がどのような事に注意し診ているかを知ることは,安全なかつ,安心してリハビリテーションに取り組むためにも有益なことと思います.



 がん患者さんは「がんによる症状」「抗がん剤による症状」「既往歴の症状」「二次的合併症による症状」等,様々な症状を抱えて生活されています.

 それらは個々人により異なり,複合的に表れます.がんのリハビリテーションを実践していく上で,「出現する症状」を予測しておく事は,「リスク管理」として重要なファクターです.



がん患者さんに起こりうるリスクファクター



1. 骨髄抑制


 化学療法や放射線治療により起こる血球の減少です.骨髄とは骨の中心にある組織で,白血球,赤血球,血小板などの血液の成分を作っています.骨髄にある細胞が抗がん剤や放射線治療によりダメージを受けることで,血液成分を作りにくくなり,感染などのリスクが高まります.


2. 抗がん剤治療後


 化学療法後には,倦怠感,嘔気による食事量と活動量の低下が起こり,心肺機能低下,筋骨格の減少がみられます.


3. 放射線治療後


 急性反応の吐き気,食欲低下,倦怠感が表れます.晩期反応の神経障害やリンパ浮腫,骨壊死などが表れます.


4. 胸水・腹水


胸膜播種,腹膜播種,心機能低下,肝機能低下の患者さんでは,胸水や腹水が出現しやすいので注意が必要です.しっかり,フィジカルアセスメントを行っていきます.


5. 血栓・塞栓症


 がん患者さんは凝固系・線溶系の異常が起こりやすくなります.ベッド臥床状態が長くなる事も重なって,血栓症や塞栓症を生じるリスクが高いので注意が必要です.日常生活の指導においても重要なファクターです.


6. 骨転移


 骨転移はがん患者さんの10‐20%に認められ,骨転移がある場合,病気Ⅳ期(進行がん)となります.

 病的骨折や麻痺などの骨関連事象(Skeletal related events : SREs)により日常生活が著しく低下し,化学療法が受けられなくなる場合もあり,予後が危惧されます.しかし,予測が難しいところです.大事なのは,骨転移の知識を持つ事だと思います.


7. 脳転移


 脳腫瘍は,原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に分けられます.転移性脳腫瘍は,すべての臓器がんで起こる怖い病気です.脳転移がわかるころには,多発転移しているケースも少なくありません.骨転移同様に,定期的な検査が必要です.脳腫瘍の基本を学び,脳腫瘍予防に役立てていくこと,普段からのフィジカルアセスメントが重要となります.




 がん治療で一番の不安は,抗がん剤による副作用です.副作用には個人差があります.

強く表れる方は途中で抗がん剤治療を断念される方もおられます.しかし,副作用は服薬である程度コントロールすることができますので,主治医に相談することが大切です.そして大事なことは,どのような副作用が出現するのか、事前に知っておく事です.



抗がん剤治療に伴う副作用

抗がん剤の副作用の症状と出現時期



・急性期症状(数時間~数日)


 悪心,嘔吐,発熱,食欲低下,倦怠感,アレルギー性反応である皮膚のかゆみ,蕁麻疹  

 等.


・中期的症状(数日~数週間)


 吐き気,嘔吐,全身倦怠感,便秘,下痢,骨髄抑制,内臓機能障害,心機能障害.


・長期的症状(数週間~数か月)


 口内炎,手足のしびれ,脱毛,爪がはげる,味覚障害,聴覚障害,貧血,間質性肺炎.



上述しましたが,副作用には個人差があり,病態によっても症状は様々です.主治医から説明がありますので,しっかりとメモをとるなどして,理解することも重要となります.



がんのリハビリテーション中止基準


 「がんのリハビリテーション中止基準」として,日本がんリハビリテーション研究会が策定した中止基準がありますので,ご紹介します.



がんのリハビリテーションを「開始するかどうかを判断する基準」


1. 血液所見


  ヘモグロビン7.5g/dl以下,血小板50,000μl以下,白血球3,000μl以下.


2. 骨所見


  骨皮質の50%以上の浸潤,骨中心部に向かう骨びらん,大腿骨の3cm以上の病変など

  を有する長管骨の転移所見.


3. 有腔内蔵,血管,骨髄の圧迫


4. 痛み、周辺症状


  疼痛,呼吸困難,運動制限に伴う胸膜・心嚢腹膜・後腹膜への浸出液貯留.


5. 脳転移


  中枢神経の機能低下,意識障害,頭蓋内圧亢進.


6. イオンバランスの崩れ


  低・高カリウム血症,低ナトリウム血症,低・高カルシウム血症.


7. 血圧低下


  起立性低血圧,血圧160/100mmHg以上の高血圧.


8. 脈拍


  110回/分以上の頻脈,心室性不整脈.


9. 体温


  38.5℃以上の発熱.



以上は,がんのリハビリテーションを「開始するかどうかを判断する基準」です.




 がんのリハビリテーションの「理学療法,作業療法,言語聴覚療法 中の中止基準」には,「土肥・アンダーソンの中止基準」が用いられています.

 「土肥・アンダーソンの中止基準」に関しては,理学療法士の必須知識でありご存知のことと思いますので,本稿でのご紹介は割愛させていただきます.



まとめ


 がんのリハビリテーションを実践する前に,「がんによる症状」「抗がん剤による症状」「既往歴の症状」「二次的合併症」を把握しておく事が重要と考えます.


 「がんのリハビリテーションの中止基準」には,日本がんリハビリテーション研究会が策定した中止基準を参考にします.リハビリテーション専門職は「土肥・アンダーソンの中止基準」を用いていきます.


 リハビリテーション専門職は,医療知識を基盤に置き,患者さんの願う生活を具現化することを目標に,リハビリテーションを実践していきます.



がんのリハビリテーションを受けられる患者さんへ


 がんのリハビリテーションは,病院では週5回(日)以上,在宅医療では1~2回(日)行われ,リハビリテーション専門職(理学療法士 等)と頻繁に顔を合わせます.

そのため,表情の違いや気持ちの浮き沈みも,しっかりと把握していきます.がんのリハビリテーションに関われる理学療法士 等は,しっかりと医療知識を持ち合わせ,性格も優しい方が多いと,私は信じています.患者さんの思いを具現化すべく日々勉強し,人としても成長すべく精進していると信じています.そのような理学療法士 等ですから,患者さんに真に寄り添える方々です.遠慮なく,その日の体調や心にため込んでいる思いを吐き出していただきたいと願っています.



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