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健康を科学で紐解く シリーズ70  「眼の血管の健康維持に重要な因子を発見!~

更新日:2023年6月25日


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。




眼の血管の健康維持に重要な因子を発見!

~滲出型加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症の新規治療薬標的として期待~




研究背景と研究成果のまとめ


 人間が受け取る情報のうち、およそ9割が視覚から得ているといわれており、加えて社会全体の高度情報化が急速に進む中、日常生活を送る上で視覚機能の重要性が更に増しています。また、超高齢社会の健康寿命延伸の実現において、視覚機能の維持・向上は極めて重要な一翼を担っています。


 滲出型加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症など、眼の中に存在する細い血管が詰まったり、血管壁が脆くなることで血液成分が漏れ出したり、異常な血管新生が生じることで、視野欠損や視力低下を招く疾患があります。このような血管異常に起因する眼疾患において、血管の健康を維持するための分子機構の解明や治療法の確立は健康寿命延伸に繋がります。


 血管が脆くなったり、異常な血管新生が生じる原因タンパク質としてvascular endothelial growth factor (VEGF) が同定され、現在、臨床においてもVEGFシグナルを制御する治療戦略が眼血管病態に対して奏功することが明らかになっています。しかし、眼の血管病変の発症や進展は非常に複雑で、VEGF以外のシグナルも関与していることが報告されています。


 岐阜薬科大学らの研究グループは、BCL6Bという細胞内のタンパク質に着目した研究を進め、眼の中の血管においてBCL6Bが増加すると正常な血管の維持に重要な物質が減少し、血管新生や浮腫が生じること、さらにBCL6B siRNAというBCL6Bの発現量を低下させる核酸医薬を投与すると、病的な血管症状が抑制されることを明らかにしました。


今回の発見は、「血管を不安定にする細胞内物質が原因で眼の病気が起こる」ことを初めて明らかにしたものです。BCL6Bを標的とした治療法が実現すれば、より多くの患者さんの"見る喜び"に貢献できると期待されます。




本研究成果の概要


 薬効解析学研究室 中村信介 准教授、嶋澤 雅光 教授、原 英彰 学長らの研究グループは、愛媛大学、千葉大学、カルナバイオサイエンス(株)との共同研究により、BCL6Bという分子が"眼の血管の健康維持"に重要であることを発見しました。


本研究成果は2023年4月20日に「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」に掲載されました。(図1~3は論文中Figure及びGraphical abstractを改変の上、転載)


 研究グループは、網膜静脈閉塞モデルマウスを作製し、網膜におけるBCL6Bの発現部位を調べたころ、血流が途絶した部位(無灌流域)、すなわち虚血部位で強く発現することを見出し(図1A)、BCL6Bの発現を抑制するBCL6B siRNAをマウスの眼の中に投与すると網膜静脈閉塞モデルマウスの網膜内に生じる浮腫を抑制することを明らかにしました(図1B)。同モデルを用いた実験系において、BCL6Bを欠損させたマウスで網膜内の浮腫が著明に抑制されたことから、内因性のBCL6Bが網膜血管の制御因子として働くことが分かりました。


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次に、滲出型加齢黄斑変性モデルマウスに認められる異常血管新生の部位でもBCL6Bが顕著に発現していました(図2A)。さらに発展的な実験として、カニクイザル滲出型加齢黄斑変性モデルを用いて検討を行いました。その結果、BCL6B siRNAを投与したモデルサルにおける血管新生が抑制されました(図2B)。


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つづいて、網膜微小血管内皮細胞を用いた実験から、VEGF添加後にNotch標的遺伝子Hesが低下すること、加えてBCL6Bの発現抑制を介してHesの減少をレスキューできることが分かりました。また、VEGFの刺激によって亢進するVEGFR2、PLCg及びeNOSのリン酸化タンパク質の発現が、BCL6B siRNAの添加により抑制されることを明らかにしました。


以上の結果より、眼内でVEGFが増加するとBCL6Bが顕著に誘導され、血管安定化作用を有するNotchシグナルを不活性化し、その結果、ペリサイトの脱落や血管透過性の亢進、管腔形成などが引き起こされることが推測されます(図3)。BCL6B siRNAのようなBCL6Bの発現を抑制する治療アプローチが滲出型加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症といった眼内の血管病変を呈する病気に対して有効である可能性が示されました。


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研究の成果(ポイント)


1.加齢や糖尿病など、様々な原因によって眼の血管異常が惹起され、視力低下や視野欠損が

 生じますが、そのメカニズムは不明な点が多く、また治療法の確立が望まれています。


2.BCL6Bが脈絡膜の血管新生や網膜の浮腫など失明に繋がる眼の血管病変に関与する分子

 スイッチとして機能することを発見しました。


3.BCL6BがNotchシグナルの不活性化と、それに続く血管内皮細胞の細胞接着分子の脱落

 やペリサイトの剥離に関与することが示唆されました。


4.BCL6B遺伝子を標的とする核酸医薬などを用いた、BCL6Bの発現を抑える治療法が

 眼の血管病変に有効である可能性が示されました。

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