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健康を科学で紐解く シリーズ116 「非定型的ゴーハム病における原因遺伝子変異の同定」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。




「非定型的ゴーハム病における原因遺伝子変異の同定」

― Gasdermin D遺伝子カスパーゼ切断部位のミスセンス変異 ―




 東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科運動器外科学分野の江面陽一非常勤講師(研究当時・難治疾患研究所フロンティア研究室・骨分子薬理学准教授)と、同・難治疾患研究所 Daniela Tiaki Uehara (ダニエラチアキウエハラ)特任助教(研究当時)、村松智輝助教(研究当時)ならびに統合研究機構リサーチコアセンター長の稲澤譲治特任教授の研究グループは、JA 長野厚生連「佐久総合病院グループ」の佐久医療センター整形外科の福島和之部長および東京理科大学薬学部の早田匡芳教授の研究グループとの共同研究で、非定型的ゴーハム病の原因が、ガスダーミン D 遺伝子のミスセンス変異によることをつきとめました。


この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに東京医科歯科大学難治疾患共同研究拠点の支援により得られたものです。




研究の背景


 骨消失病変を特徴とする極めて稀な骨系統疾患「ゴーハム病」(厚生労働省:指定難病 277)は、若年者に発症する症例の多くにリンパ管腫を伴いやすいことから、本邦ではリンパ管腫症とともに厚生労働省が特定する指定難病として扱われていますが、その病因・病態は明らかにされていません。


従来、本疾患には遺伝的要因は関与しないとされてきましたが、近年、「ゴーハム病」にはいくつかの病型のあることも指摘されるようになり、遺伝的要因関与の可能性も浮かび上がってきました。




研究成果の概要


 研究グループは、長野県の佐久医療センターでゴーハム病と診断された 1 症例が、従来報告されてきた典型的なゴーハム病の症例とはやや異なる臨床的特徴をもつことに気づきました。発症年齢、リンパ管腫の有無、外傷既往の有無などの相違に加えて、本症例の両親はいとこ婚であったことが判明しました。


遺伝子変異等の関与が想定されるため、本症例とご兄弟の血液検体をもとに全エクソン配列解析を行ったところ、Gasdermin D遺伝子内にホモ接合性の遺伝子変異が同定されました。この変異はアミノ酸置換を伴うものであり、単球・マクロファージ系細胞内における Gasdermin D 蛋白質が病原体感染などの刺激に反応したカスパーゼによって切断される部位に一致していました。


この切断によって、単球・マクロファージ系細胞における炎症性サイトカイン放出を誘導する細胞死がもたらされることが知られていますが、本症例から採血した単球においてはこの切断が起らないことが実験的に証明されました。


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研究成果の意義


 このような遺伝子変異はゲノムワイドな大規模遺伝子多型のデータベースを探索しても、欧米人での登録はありませんでしたが、アジア系人種を元に探索されたデータベースでは 0.03%程度の頻度で存在していました。ただし、この変異をホモ接合性に保有する個人はこれまで報告されておらず、我々はそのような変異がヒトにおいて特徴的な骨病変を生じることを初めて見出したことになります。


単球・マクロファージ系細胞における感染誘発性の細胞死と炎症性サイトカインの大量放出が起らないことと、骨消失病変形成の因果関係は必ずしも連結できるものではありませんでした。ところがごく最近、海外の研究グループが、成熟間近の破骨細胞内において Gasdermin D 蛋白質が 2 か所で切断されることにより生じた分子断片が破骨細胞の最終分化を抑制することを、遺伝子改変マウスを用いて明らかにしました(2022 年 10 月Developmental Cell 誌)。


この結果は、我々の知見を消失性骨病変形成の原因として裏付けるものであり、Gasdermin D 遺伝子変異に基づく新たな病型のゴーハム病が存在することが初めて示されたと言えます。




発表のポイント


1.謎であったゴーハム病の原因の1つに、ガスダーミン D 遺伝子の変異があることをつき

 とめました。


2.ゴーハム病の病型分類および病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。




用語解説


※1 Gasdermin D (ガスダーミン D):


炎症性細胞応答の鍵をにぎるインフラマソーム蛋白質のひとつとみなされる細胞内分子。

分子内切断を受けた蛋白質断片が重合して細胞膜に穴をあけ、細胞死を誘導する。


※2 カスパーゼ:


細胞死や炎症を含む多くの細胞プロセスで重要な役割を果たす一群の蛋白質分解酵素。

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