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「ニンニクやタマネギなどに含まれる成分が、調理過程で トランス脂肪酸の生成を促進する」-No.475




ニンニクやタマネギなどに含まれる成分が、

調理過程でトランス脂肪酸の生成を促進する事実と

その抑制方法を発見!




 株式会社ニッスイの 小尾 純志 研究員と名城大学大学院総合学術研究科の 本田 真己 准教授らのグループは、ニンニクやタマネギ、ブロッコリースプラウトなどに含まれる含硫化合物(ポリスルフィド類注1)、イソチオシアネート類注2))が、加熱調理の過程で心疾患のリスクを増大するトランス脂肪酸注3)の生成を促進することを発見しました。そして、このトランス脂肪酸の生成は、調理の工夫(抗酸化成分を多く含む油脂の使用や低温調理)で抑制できることを明らかにしました。




本件のポイント


1.ポリスルフィド類とイソチオシアネート類などの含硫化合物は、高温条件下(140 ℃以

 上)で油脂(トリアシルグリセロール注4))中の不飽和脂肪酸注5)のトランス異性化を促進す

 る。


2.ポリスルフィド類とイソチオシアネート類を豊富に含む野菜(ニンニク、タマネギ、ブロ

 ッコリースプラウトなど)は、加熱調理の過程で植物油脂(大豆油、オリーブ油)中の不飽

 和脂肪酸のトランス異性化を促進する(図1を参照)。


3.イソチオシアネート類による異性化促進作用は、少量の抗酸化剤の添加で抑制できる。


4.ポリスルフィド類による異性化促進作用は、低温・短時間の調理により抑制できる。


5.含硫化合物を含む野菜の加熱を伴う料理への使用は、トランス脂肪酸の増加につながるこ

 とは確かであるが、ただちに健康に害を及ぼすレベルではないので、過剰な注意は不要と

 考えられる。




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図1:含硫化合物を含む野菜が加熱調理(180℃、30分)工程においてトランス脂肪酸(エライ

  ジン酸)の生成に及ぼす影響とメカニズム 





背景


 オレイン酸やリノール酸、エイコサペンタエン酸(EPA)などの不飽和脂肪酸は、高温での加熱や部分水素添加注6)処理によりトランス脂肪酸に変化(トランス異性化)します。これまで、多くの疫学研究でトランス脂肪酸の摂取量と心疾患リスクに相関関係があることが示されています。これを受けて、世界中でトランス脂肪酸の低減に関する研究が行われ、部分水素添加油脂を別の油脂で代替させる技術などの導入により、トランス脂肪酸含量の低い油脂が製造され利用が進んでいます。

一方、調理の過程で生じるトランス脂肪酸に関する研究は限られています。例えば、食用油脂に含まれる不飽和脂肪酸はさまざまな食材とともに加熱されることが多いにもかかわらず、食材に含まれる成分が不飽和脂肪酸のトランス異性化に及ぼす影響を調査した事例はほとんどありません。そこで本研究グループは、様々な食材が加熱調理過程においてトランス脂肪酸の生成に及ぼす影響を調査し、そのメカニズムの解明を行うことを目的とする研究を行いました。




研究内容


 本研究ではまず、高純度の不飽和脂肪酸とさまざまな食品成分の標準試薬を組み合わせて加熱するモデル試験を行いました。その結果、天然の含硫化合物であるポリスルフィド類(ニンニク、タマネギなどに含まれる香気成分)とイソチアシネート類(ワサビ、マスタードなどの辛み成分)が不飽和脂肪酸のトランス異性化を促進することを明らかにしました。

さらに、これらの含硫化合物を豊富に含むニンニク、やタマネギ、ブロッコリースプラウトが加熱調理の過程で植物油(オリーブ油、大豆油)中の不飽和脂肪酸のトランス異性化を促進することを見出しました。具体的には、250 通り以上の試験結果をもとに以下の1)、2)の知見を得ました。

 

1)試薬を用いたモデル試験から得られた結果のまとめ


  • 140℃以上の加熱でポリスルフィド類とイソチアシネート類は不飽和脂肪酸のトランス異性化を促進した。

  • イソチアシネート類はポリスルフィド類より低温で不飽和脂肪酸のトランス異性化を促進した。

  • 上記含硫化合物の濃度が高いほど、不飽和脂肪酸のトランス異性化が促進された。

  • 加熱温度が高く、加熱時間が長いほど、上記含硫化合物による不飽和脂肪酸のトランス異性化が促進された。

  • 抗酸化剤(α-トコフェロール、BHTなど)の添加により、イソチアシネート類による不飽和脂肪酸のトランス異性化は劇的に抑制された(図2を参照)。

  • 抗酸化剤を添加しても、ポリスルフィド類による不飽和脂肪酸のトランス異性化はほとんど抑制されなかった(図2を参照)。

 

2)実際の調理工程を想定した試験から得られた結果のまとめ


  • ニンニク、タマネギ、ブロッコリースプラウトなどのポリスルフィド類とイソチアシネート類を含む野菜が、加熱調理(180℃、30分)により食用油脂(オリーブ油、大豆油)中の不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸)のトランス異性化を、統計学的に有意に促進した(図1を参照)。

  • ニンニクは特に高いトランス異性化促進効果を示した(図1を参照)。


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図2:抗酸化剤(α-トコフェロール)の添加による油脂(トリオレイン注7))加熱後(180℃、30

  分)のトランス異性化の抑制 :(A)ジアリルジスルフィド注8)(DADS)もしくは(B)アリル

  イソチオシアネート注9)(AITC)の存在下における加熱試験



 以上の結果は、抗酸化成分を豊富に含む油脂や食材を使用することや、低温・短時間の調理を心がけることにより、ポリスルフィド類とイソチアシネート類を含む野菜による不飽和脂肪酸のトランス異性化を抑制できることを示唆しています(表1を参照)。


通常、植物油脂(大豆油、オリーブ油、ヒマワリ油など)にはα-トコフェロールなどの抗酸化成分が豊富に含まれてますので、イソチアシネート類を含む野菜の使用によるトランス脂肪酸の増加リスクは低いと考えられます。また、上記野菜を調理する際に、長時間または繰り返し使用した油脂の使用は控えた方が良いかもしれません(油脂中の抗酸化成分の含有量が低下している可能性があるため)。なお、ニンニクやタマネギなどを用いた加熱調理がトランス脂肪酸の摂取リスクの増加につながることは確かですが、その増加量はただちに健康に害を及ぼすレベルではないので、過剰な注意は不要と考えられます。脂質に偏った食事をしている人は、少々留意する必要があるかもしれません。

 

表1:含硫化合物によるトランス異性化の特性

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用語解説


1) ポリスルフィド類

R-Sn-R'(R と R' のいずれも水素原子ではない)で表される化合物の総称。ニンニクやタマネギなどのネギ属の野菜に豊富に含まれる香気成分である。


2) イソチオシアネート類

-N=C=Sの官能基をもつ化合物の総称。キャベツやブロッコリーなどのアブラナ属の野菜に含まれる辛味成分である。


3)トランス脂肪酸

不飽和脂肪酸のうち、二重結合がトランス型の構造をもつものの総称をいう。主に油脂の加工・精製過程で生じるものと天然由来(反すう動物由来のバターなど乳製品など)のものが存在する。多くの疫学研究により、トランス脂肪酸の摂取は心血管系疾患リスクの増大に相関があることが示されている。この結果を受け、WHO (世界保健機関)は、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えることを推奨している。


4)トリアシルグリセロール

1 分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロール。食用油脂の主成分である。


5)不飽和脂肪酸

炭素と炭素の間に二重結合をもつ脂肪酸。天然の不飽和脂肪酸の二重結合は、ほとんどがシス型である。


6)部分水素添加

大豆油や菜種油などの液体の油に部分的に水素を添加して、半固体や固体にした油脂(硬化油)を作る技術。部分水素添加により得られた油脂は、マーガリンやショートニングなどの原料として幅広く使用されている。この工程においてトランス脂肪酸が生成することが問題となっている。


7)トリオレイン

1 分子のグリセロールに3分子のオレイン酸がエステル結合したトリアシルグリセロール。


8)ジアリルジスルフィド

示性式 CH2 =CHCH2 SSCH2 CH=CH2(分子量:146.3)で表されるポリスルフィド類。ニンニクやタマネギなどに含まれるの香気成分である。


9)アリルイソチオシアネート

示性式CH2 =CHCH2 NCS(分子量:99.2)で表されるイソチオシアネート類。マスタードやワサビなどに含まれるの辛味成分である。

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