「アルツハイマー病の原因物質アミロイドβが脂質膜中で毒性を示す過程のリアルタイム観察に成功」-No.286
- nextmizai
- 2024年1月13日
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アルツハイマー病の原因物質アミロイドβが脂質膜中で毒性を示す過程
のリアルタイム観察に成功!
東京農工大学と三重大学のグループは、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβが人工細胞膜中で毒性を持つ構造に変化する様子をリアルタイムに観察することに成功し、膜中のコレステロールが毒性構造への変化を促進することや、カテキンが毒性構造を阻害することを見出しました。
これらの発見は、アルツハイマー病の治療法開発に有用な知見となることが期待されます。
現状
アルツハイマー病の原因物質であるアミロイド β(Aβ)は凝集性が高く、単量体(モノマー)から中間体の重合体(オリゴマー)を経てアミロイド線維を形成することが知られており、中でもオリゴマーに強い細胞毒性があることがわかってきています。
Aβ オリゴマーの細胞毒性機構の一つがチャネル(細胞膜を貫通する孔)形成であり、神経細胞膜中に孔を開けることで細胞死を引き起こしますが、これまで Aβ が膜中でモノマーからオリゴマーに凝集していく過程は確認されていませんでした。
最近、小さい繊維状のオリゴマー(プロトフィブリル)を標的としたモノクローナル抗体であるレカネマブがアルツハイマー病の新薬として承認され、Aβ の凝集過程を理解することがますます重要視されてきています。
研究成果
研究チームはまず、マイクロデバイスを用いたチャネル電流計測によって、Aβ モノマーが脂質膜(人工細胞膜)中で凝集してチャネルを形成していく過程(図 1a)の観察を試みました。チャネル電流計測では、Aβ と脂質膜の相互作用によって流れるイオン電流を電流シグナルとして観測することができます。Aβ モノマーと Aβ オリゴマーでは電流シグナルの特徴が異なるため、Aβ の膜中でのチャネル形成を電流シグナルの変化から観測することができます。Aβ モノマーを用いてチャネル電流計測を 2 時間行ったところ時間経過に伴うシグナルの変化が観測され(図 1b)、膜中で Aβ モノマーが凝集してオリゴマー化し、チャネルを形成することを発見しました。続いて神経細胞膜を模倣した人工細胞膜を用いて計測を行ったところ、コレステロールを含む膜組成においてチャネル形成シグナルが多く観察され、膜中のコレステロールが Aβ の膜中でのチャネル形成を促進することがわかりました。さらに、Aβ の凝集阻害剤であるカテキンの一種 EGCG の Aβ チャネルへの作用を調べた結果、EGCG の添加により電流シグナルが減少し、EGCG は Aβ の凝集だけでなく、膜中に形成されたチャネルの活性も阻害することを新たに発見しました。
図 1 (a) Aβモノマーが膜中でオリゴマー化し、チャネルを形成する様子。
チャネル形成により細胞内へのイオン流入量が増加し、細胞内のイオンの均衡が崩
れることで神経細胞死を引き起こすことが知られています。
(b) 2 時間のチャネル電流計測によって得られた電流シグナル。
時間経過に伴いモノマー由来のシグナルが減少し、オリゴマー由来のシグナルが
増加することが確認されました。
今後の展開
本研究により、チャネル電流計測によって Aβ と人工細胞膜との相互作用を観測し、凝集の過程を観察できることが明らかになりました。これにより、Aβ と神経細胞膜との相互作用の解明が進み、アルツハイマー病の治療法開発に貢献すると期待されます。







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